現在、国産オオクワガタブリーダーたちの多くが血統付きのオオクワガタを飼育されていると思います。特に能勢YG、森田GGといった大型血統はブリード初心者の方でも、菌糸ビンを使うことで比較的簡単に大型の成虫を羽化させることができます。
ペットショップやネットオークション、ネットショップなどでも多くの血統付き個体が販売されており、同じ血筋であっても数mmの違いで値段に数万の差が生じることは当たり前の話となっています。


多くの飼育者たちの間で共通認識として「サイズの大きい個体=値段が高い=良い個体」という認識が存在しています。
ある国産オオクワガタその1個体の体長を計測し値段を付ける、ここに(体長を数値化し、さらにそれに値段を付けるという2回に及ぶ)非常にわかりやすい「価値の数値化」、「価値の見える化」が行われています。
それは同時に、サイズが出なかった個体たちの「相対的な価値の減少」となります。


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例えば、ある初心者ブリーダーが自分でオオクワガタをブリードし、5匹のオスと6匹のメスを無事に羽化させることに成功したとします。
初めて自分の手でオオクワガタを羽化させた感動と喜びは非常に大きなものでしょう。
その中でも1匹のオスはとりわけ大きく、他のオスと比べてみてもサイズが一回り違います。
卵から成虫になるまで大切に育てた全ての個体が彼にとって大切であることは変わりありません。
しかし、一番大きなオスはやはり彼にとって一番のお気に入りの個体となりました。
その後、彼はインターネットを使ってオオクワガタというのはどのくらいの大きさから大型なのか調べます。
近頃のオオクワガタは個人飼育でも80mmアップは普通で、ネットオークションを利用すれば80mm前半のオスであれば数千円で手に入れることができます。
彼はこの情報を知り、早速自分の飼育しているあの最も大きなオオクワガタの体長を測ってみました。
結果は76mmでした。
彼はショックを受けます。
卵から大切に育て、菌糸ビンを交換し、羽化させた中で一番大きな個体が、世間ではたった数千円以下の価値しかないのです。
当然この個体以下のサイズのオスたちはもっと値段が低いことになります。羽化するまでに使った菌糸ビンの元が取れる程度でしょう。
この瞬間に、自らオオクワガタを飼育し羽化させたという何ものにも代え難いはずの感動が、彼の中でたった数千円という価値に置き換わってしまうのです。



この個人的な価値や感動の減少が起こるのは、国産オオクワガタの相場を知らない初心者ブリーダーに限ったことではありません。
もう10年以上オオクワガタを飼育している熟年ブリーダーにも同じことが起きえます。
ギネスサイズのオオクワガタの作出を目指し、何年も100匹単位のオオクワガタのブリードを毎年続けている方は全国に何人もいらっしゃるでしょう。
しかし、ギネスサイズというのは当然世界で最も大きいというわけですから、そうそう簡単に出せるものではありません。相手は生き物ですから、こうすれば確実にギネスサイズを作出できるということはありえませんし、運が占める割合が大きいです。
こういったブリーダーにとっての大切な個体というのは、塁代に使用する毎年羽化してくるオオクワガタの中でも最も大きいオスと最も大きいメスの2匹だけなのです。
大規模な飼育設備を整えている場合、産卵セットは複数用意するはずなので、2匹だけという言い方は極端だったかもしれませんが、それでも次の塁代に使用する個体は多くて20匹以下でしょう。
残りのサイズの小さい数百匹のオオクワガタは、こういったブリーダーにとってはほとんど価値のない存在となります。
数百匹のうち最も大きな個体ですら、目標であるギネスを更新することはほとんどありえず、自己ギネスすら更新できない年もあるでしょう。
その時のこの熟年ブリーダーが感じる徒労感や虚無感というのは、先の初心者ブリーダーに匹敵するか、もしくはさらに大きなものがあると思います。
なにしろ分母の大きさがちがいますからね、数匹に対しこちらは数百匹ほぼ全ての個体が無価値なものとなってしまうのです。


こういった現象は、「サイズの大きいオオクワガタ=高い=良い個体」という一辺倒の価値観から生まれます。
有名なオオクワブリーダーさんの中にもサイズにこだわらず、産地にこだわったり、アゴの太さなどオオクワガタの形にこだわったり、自己採集品のみを塁代することにこだわったりなど色々な楽しみ方をしている人がいらっしゃいます。
こういった方々は恐らく、国産オオクワガタの大型血統やそのサイズなど数字にこだわった飼育の先に、無感動や無価値という結末しか待っていないことに気づいたのでしょう。
オオクワの血統というものは、どこかのブリーダーが自分のオオクワガタにブランドを付けたいがために勝手に名乗っているだけです。
国産オオクワガタは全てDorcus hopei binodulosusであり、分類学上は何の違いもありません。
異常な大型信仰と大型血統信仰は価値観の一本化を招き、また、それはブリードに対するモチベーションの低下につながり生き物を飼育する喜びを無くしてしまう恐れがあります。
私は、オオクワガタのブリードを長く楽しむためには自分自身の中で思想の転換と新たな価値観の創造を行う必要があると考えています。